アビガンが新型コロナに「効果あり」の先行報道で少し気がかりなこと

コロナウイルス

日本発の抗インフルエンザ薬であるアビガンが、新型コロナウイルスに効果ありとの一部報道を受けて注目されていましたね。

参考 中国政府 臨床試験でアビガンに治療効果 治療薬として使用へNHK NEWS WEB

しかし、この報道を受けて少し気にかかっていることがあります。

それはアビガンが抗インフルエンザ薬の中でも特殊であり、むやみに使用できる位置づけではない薬だからです。

インフルエンザでは「最後の切り札」的なポジションのアビガン

アビガンの公式HPにある薬の説明(添付文書)には、以下のような記載があります。

本剤は、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分な新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が
発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討さ
れる医薬品である。

ここだけでも十分その特殊性が感じられるかと思います。

アビガンは「国が判断した場合のみ」という、とても強力な縛りがある薬なのです。

なぜ強力な規制がかかっているのか?

アビガンには、動物実験において初期胚の致死及び催奇形性が確認されており、これが強力な規制の一因となっているようです。

初期胚の致死や催奇形性とは?

分かりやすく言うと、受精卵から発達する初期の方で赤ちゃんが亡くなってしまったり(=初期胚の致死)、体に奇形が出てしまう(=催奇形性)可能性があることです。

(※投与した全ての場合において起こるわけではありません。通常出産でも先天大奇形の可能性は約3%あります。)

男女共に注意が必要

アビガンの胎児に対する影響を注意しなければならないのは女性側だけではありません。

アビガンは精液中にも移行することから、男性側でも服用すれば胎児へのリスクの原因になるため、男性側も注意する必要があります。

そのため、

  • 妊婦、妊娠している可能性のある女性には投与しない
  • 投与期間中および投与終了後7日間は、男女共にしっかりと避妊(コンドーム等)を心がける

というように、妊娠の可能性がある人およびそのパートナーには十分な注意が必要な薬剤になっています。

 

母乳中にも移行

アビガンは母乳中へ移行することから、授乳婦の方では投与は可能ですが、投与の際には授乳を中止する必要があります。

小児の場合

アビガンの添付文書によれば、「小児での投与経験はない」とされています。

また動物実験では、幼若イヌやラットの例で死亡例や、体の様々な組織への影響(変性や壊死など)が報告されています。

それでも医薬品として承認されている理由は?

胎児への影響が懸念されるアビガンは、使えるのは「国が判断した場合のみ」という厳しい縛りがあるにも関わらず、なぜ医薬品として承認されているのでしょうか?

それには従来の抗インフルエンザ薬とは異なる効果のメカニズムが大きく関係していると言われています。

他の抗インフルエンザ薬とは異なるメカニズム

アビガンが存在する価値としては、他の抗インフルエンザ薬とは異なった経路で効果を出せる点が大きいです。

 

タミフルなどのよく使われている抗インフルエンザ薬では、どうしても耐性ウイルスの問題が出てきます。

今のところはタミフル等のよく使われる抗インフルエンザ薬は、耐性ウイルスは出ていますが、社会全体で有効で無くなるほどの広がりはありません。

しかし万が一将来的に、従来の抗インフルエンザ薬では効果が出ないウイルスが発生、もしくは重篤な病気の人が耐性ウイルスに感染した場合などには、アビガンのような従来の抗インフルエンザ薬とは異なる経路で効果を出せる薬は、正に切り札となる貴重な役割があります。

そのため、胎児への影響が懸念されるアビガンですが、「国が判断した場合のみ」という縛りの元、医薬品として承認されているようです。

切り札
少し前に流行ったゾフルーザも、従来の抗インフルエンザ薬とは異なる経路で効果を発揮するため、同じような役割(=他の薬が効かない場合の代替薬)が期待されていました。

しかし、安易な処方の増加の結果、ゾフルーザ自体への耐性ウイルスの増加を招いてしまうという問題が起こってしまいました。
(⇒ゾフルーザの耐性ウイルスの関連記事

他のウイルスへの効果も期待される

アビガンは抗インフルエンザ薬として承認されていますが、インフルエンザウイルスにしか効かないわけではありません。

アビガンはウイルスが増殖するメカニズムを阻害する効果があるため、同様のメカニズムで増殖するウイルスにも効果がある可能性があります。

実際、過去にエボラ出血熱に対する効果の可能性も一部で示されていますし、現在社会問題となっている新型コロナウイルスに対する効果も一部で報告されています。(まだ可能性ありという報告の段階であり、実用的な段階までは至っていない点に注意。)

「効果あり」の先行報道で気がかりなこと

新型コロナウイルスへの効果でニュースで取り上げられたアビガンですが、副作用に触れずに「効果あり」だけ報道している報道機関が少なくない点を非常に懸念しています。(アビガンの副作用について、きちんと触れている報道機関もあり、そのような報道機関はやはりきちんとした人が書いているのだなと思います。)

新型コロナウイルスに効果があるかもしれないという報告は、今の状況には希望の光が差すようなニュースで、その点では喜ばしいことだと思います。

しかし、先ほど述べたような催奇形性のような副作用は、決して軽視して良い副作用ではありません

個人的には、副作用の観点からアビガンを使用するのは一部の成人や重症例のみなど、限られた範囲になるのではないかと思っています。

効果がある可能性の面だけを強調し、むやみに期待を持たせるような報道機関の姿勢は、やはり適切に情報を提供しているとは言えないため、誤解を招いているような気がしてなりません。

報道機関の方達が、アビガンのメリットだけでなく、デメリットも含めて冷静に情報提供してくれることを切に願っています。