インフルエンザのお薬として、昨シーズンに爆発的に人気が高まったゾフルーザ。
飲むのが1回だけで済むとあって、日頃からお子さんに薬を飲ませるのに苦労していた保護者の方達には、ありがたい薬だったのではないでしょうか。
ところが最近、「ゾフルーザは12歳未満に対しては慎重に投与を」という提言が学会から出され、一躍ニュースに。
昨シーズンに「ゾフルーザのおかげで助かった」と思ってた人は、このニュースを見て「え!?ゾフルーザ使えなくなるの?」と思った人もいるのではないでしょうか?
今回の記事では、ゾフルーザの12歳未満への慎重投与についての情報と、今後の利用はどうすれば良いのか?について取り上げてみました。
今回の情報の発信源は?
ゾフルーザの12歳未満への慎重投与は、日本感染症学会が取りまとめた提言が発信源になります。
参考 日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」日本感染症学会日本感染症学会の提言によれば、ゾフルーザに対する提言は以下の通りです。
- 12-19歳および成人:臨床データが乏しい中で、現時点では、推奨/非推奨は決められない。
- 12歳未満の小児:低感受性株の出現頻度が高いことを考慮し、慎重に投与を検討する。
- 免疫不全患者や重症患者では、単独での積極的な投与は推奨しない。
(参考)日本小児学会の今年度のインフルエンザ治療指針
違う学会の発表になりますが、日本小児学会の「2019/2020 シーズンのインフルエンザ治療指針」では、ゾフルーザ(一般名:バロキサビル マルボキシル)の12歳未満への投与は積極的に推奨しない旨の内容が書かれています。
(学会が異なると、基本的な姿勢に違いが出る場合があります。)
どうしてゾフルーザが12歳未満に慎重投与に?
先ほど紹介した、2019/2020 シーズンのインフルエンザ治療指針では、次の2点が主な理由として書かれています。
- 使用経験に関する報告が少ないこと
- 薬剤耐性ウイルスの出現が認められること
使用経験に関する報告が少ない
ゾフルーザはまだ発売されて間もない薬(2018年3月販売開始)なので、実際に使ってのデータがまだまだ少ないです。
(市販前に様々な試験は行われますが、その時のデータの数とは比較にならないほど、市販後のデータは規模が大きくなります。)
データが少ないということは、効果や副作用などに関して、まだ未知の事実が見つかってくる可能性が十分あるということになります。
特に12歳未満に関しては、データが少ないようです。
だから、データが少ない現時点では、まだ慎重である必要があるわけですね。
薬剤耐性ウイルスの出現が認められる
ゾフルーザで特に問題視されているのが、他の抗インフルエンザ薬に比べて耐性ウイルスが発生しやすい点です。
以下は、他によく使われている抗インフルエンザ薬のタミフルとの比較表になります。
ゾフルーザ | タミフル | |
成人および青年(13歳以上) | 9.7% | 0.67% |
小児(12歳未満) | 23.4% | 4.8% |
※ゾフルーザに関する臨床試験では、成人および青少年では9.7%、そして12歳未満の小児においては23.4%の割合で耐性ウイルスが検出されたとの結果。(塩野義製薬のゾフルーザ臨床成績検出頻度-アミノ酸変異ウイルスについて-より)
※タミフルに関する臨床試験では、成人及び青年(13歳以上):0.67%(15/2,253例)、幼小児(1~12歳):4.24%(72/1,698例)、新生児、乳児(1歳未満):18.31%(13/71例)。(中外製薬 タミフルカプセル75 よくある質問より)。上の表の小児(12歳未満)については、幼小児(1~12歳)と新生児、乳児(1歳未満)の結果をまとめている。
決してタミフルが耐性ウイルスが出にくいわけではありません。
(タミフルにおいては、1歳未満の新生児・乳児に限れば、耐性ウイルスが18.31%の割合で検出されています。)
比較してみると、ゾフルーザの方が耐性ウイルスの検出割合が高く、さらに12歳未満での検出割合が特に高いことが分かると思います。
耐性ウイルスが出ると、薬が効きにくくなったり、症状が長引いたり、悪化しやすくなる可能性が高くなります。
耐性ウイルスは、特に免疫力の弱い子供やお年寄り、入院患者の方達にとっては深刻な問題となります。
ゾフルーザのメリット
「それじゃあ、12歳未満の子供がいる保護者は、今後どうすれば良いの?」という話に行く前に、ゾフルーザのメリットとデメリットについてもチェックしておきましょう。
今後ご自身やお子さんがインフルエンザにかかって、薬を選択する場合(患者側の希望もある程度は聞いてもらえます)の参考になるのではないかと思います。
※メリットの参考情報は主に日本感染症学会の提言「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬について」を参考にしました。
1回飲むだけで良い
やっぱり飲むのが1回だけですと、とても楽ですよね。
特に薬を飲ませるのに苦労するお子さんがいる場合、薬を飲ませるだけで一苦労。
そんな時に1回だけで良いゾフルーザは、とっても助かりますよね。
でも、1回飲むだけはデメリットもあるの知ってますか?
副作用に関わることなので、後のデメリットのところで説明するので、しっかりと確認しておいてください。
今までとは違う作用機序
ゾフルーザは従来の抗インフルエンザ薬と異なる効き方をします。
このメリットは一般の方の側からは分かりにくいメリットになりますが、医療にとってはとても大きな意味を持ちます。
今までの抗インフルエンザ薬のほとんど(飲み薬だとタミフル、リレンザ、イナビル)は、ノイラミニダーゼ阻害薬と呼ばれるグループに属しています。
ノイラミニダーゼ阻害薬のイメージとしては、細胞の中でウイルスは増えますが、そこから出て行くことを防いで、他の細胞への感染を防ぐイメージ。
一方キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬とも呼ばれるゾフルーザは、細胞の中でウイルスが増えること自体を防ぐことで効果を発揮します。
この効くポイントが違うと言うことは、治療上でとても大きな意味を持ちます。
それは特に、耐性ウイルスが出たときに効果を発揮します。
例えば、これまでの薬(タミフルなど)で耐性ウイルスが出たとき、代わりになる薬がないとどうなるでしょうか?
耐性ウイルスが増えると、症状が長引いたり、場合によっては重症化したりして、深刻な症状を引き起こしてしまう人が増える可能性があります。
そんな時に役立つのが、効くポイントが異なるゾフルーザです。
従来の薬に対する耐性ウイルスでも、効くポイントが違うゾフルーザは効果を発揮できるので、耐性ウイルスに感染した人にとって大きな助けになります。
ここがゾフルーザの最大のメリットと言っても過言では無いと思っています。
では、ゾフルーザを使いすぎて、ゾフルーザの耐性ウイルスが広まっていくとどうなるでしょうか?
ここが今問題になっていることなのです。
本当に必要な時にゾフルーザを使おうとした時、ゾフルーザの耐性ウイルスが世の中に増えていたら、どうなるでしょうか?
奥の手として使いたいゾフルーザが効かない、そんな事態になるかもしれません。
感染予防効果が高い可能性
ゾフルーザはタミフルに比べ、ウイルス感染価を早期に大幅に低下させることが臨床試験で確認されています。
このため、感染予防効果がタミフルより高い可能性があると言われています。
感染予防効果が高いと、家族間での感染が減って安心・・・だけではありません。
重い病気を持っている人、免疫力が落ちている人といった、インフルエンザで重症になりやすい人が多い施設での集団感染を減らせる可能性があると言う点も、とても大きな意味があります。
でも、これも耐性ウイルスが増えていくと、必要な時に使えないケースが出てくる恐れがあるわけです。
ゾフルーザのデメリット
副作用が長引く可能性がある
副作用が長引く可能性があるデメリットは、多くの人にとって盲点になっていることではないかと思います。
1回飲むだけで長く効くと言うことは、それだけ長く体内に薬が留まると言うことです。
これは飲むのが楽になる反面、副作用が出たときには不利に働くことにもつながります。
本来なら副作用が起こった際には、副作用が少しでも早く収まるためには、なるべく早く薬が体内から消えて欲しいところです。
しかし、長期間体内に残る薬の場合、そうはいきません。
なかなか体内から消えて無くならないと、副作用が長引くことにつながる恐れがあります。
例えば、血液中の薬の量が半分になる時間は、タミフルの場合は4時間ほどですが、ゾフルーザの場合は90~100時間(4日弱)とかなりの違いがあります。
ゾフルーザは1回飲むだけのメリットが強調されがちですが、その裏側にはデメリットがあることも知っておく必要があると思います。
耐性ウイルスが出やすい
ゾフルーザが耐性ウイルスが出やすいことは、12歳未満が慎重投与になった理由のところでも紹介しましたね。
耐性ウイルスが出ると、症状が長引いたり、重症化しやすくなることにつながることも、ここまでにお伝えしていると思います。
ゾフルーザが「従来とは異なる効き方をする」「感染予防効果もある可能性」など、他の抗インフルエンザ薬が使えない場合の貴重な代わりの薬になることも述べてきたと思います。
このゾフルーザの耐性ウイルス問題については、医療関係者だけでなく、利用する側の一般の方々にも真剣に考えていただきたいことと思っています。
まとめ&今後どうするのが良い?
まず、今回の医療系の学会から出ている情報は、「慎重投与」「積極的に推奨しない」との表現になっていますので、ゾフルーザを12歳未満に使うことが禁止されたわけではありません。(今後の情報次第で変更になる可能性はあります。)
だから、現時点では「12歳未満にも、使おうと思えば使える」状態にあると言えます。
ただし、今回の提言を受けてゾフルーザの処方に慎重になる医師は増えると思われますので、最初からゾフルーザを出す医療機関は以前よりは減ってくると思われます。
薬剤師からの提案
もし可能であれば「安易にゾフルーザを選択しない意識」を、利用する側の方達も持っていただけますと助かります。
「ゾフルーザは単に1回飲むだけ楽」というお薬ではありません。
ゾフルーザにはもっと大きな価値があって、具体的には「従来の薬とは違う効き方をする」「感染予防効果のある可能性」などから、ゾフルーザは従来のノイラミニダーゼ阻害薬が効かない、使えない場合の貴重な選択肢となり得ます。
しかし、ゾフルーザは耐性ウイルスが出やすいという問題も同時に抱えています。
そこに「楽だから」という理由だけでゾフルーザをどんどん使ってしまうことは、耐性ウイルスを増やす結果となり、ひいてはいざという時に、ゾフルーザを切り札として使う可能性も奪ってしまうことになりかねません。
そんな時困るのは、日頃から健康な人達ではなく、老人や病気の方など元々リスクの高い人達です。
もちろん、必要である場合にはゾフルーザを使うことはあって良いと思います。
慎重投与となった12歳未満の子供でも、薬を飲ませるのが本当に大変、しんどいという場合には、ゾフルーザを使う選択肢は普通にアリだと思います。
大人であっても、食事が取れなくて本当につらい、そんな中何回も薬を飲めないという、必要な事情があればゾフルーザを選択することもアリだと思います。
ですがもし、薬を飲むのにそれほど苦労しない、また抗インフルエンザの吸入薬も選択肢にできるという人、これは12歳未満の小児に限らず、成人においても言えることですが、ゾフルーザ以外の従来の抗インフルエンザ薬が使える人は、まずはそちらを優先できれば、それが将来的には、本当にゾフルーザを必要とする人達を救うことにつながります。
もし可能であれば、今回お伝えしたゾフルーザの可能性について、頭の片隅に残しておいていただければと思います。