今回はまつげ美容液と混同されやすい、まつげ育毛剤について取り上げていきます。
まつげが痩せてボリュームが落ちてきた・・・。
そんな時にたどりつくのが「まつげ育毛剤」。
ですが、本当に効果が出ることを確認されている製品は限られていることをご存じでしょうか?
実は、まつげ育毛剤とまつげ美容液は別物なのですが、そこを勘違いしている人は少なくありません。
また現在市販されている医薬部外品のまつげ育毛剤は、本来は髪用のものを流用しているため危険であるという指摘もあります(国民生活センターからの発表より)。
まつげを育てることができると確認されているのは、実際には医療機関で手に入る医薬品に限られています。(2019年8月時点)
この記事では、まつげ育毛剤に関する誤解をといて、本当に正しいまつげ育毛剤の利用ができるよう、皆様のお手伝いをさせていただきます。
【大きな誤解】まつげ育毛剤とまつげ美容液は別物
最初にも書きましたが、まつげ育毛剤とまつげ美容液は全くの別物です。
育毛効果を期待してまつげ美容液を買った人をガッカリさせてしまい申し訳ありませんが、これは事実です。
化粧品と医薬部外品の大きな違い
ドラッグストアなどで市販されている、まつげ美容液とまつげ育毛剤はそれぞれ次のように分類されます。
- まつげ美容液 = 化粧品
- まつげ育毛剤 = 医薬部外品(※)
※市販で医薬品のまつげ育毛剤は調査時点では無かったため、医薬部外品だけ記載
「育毛効果がある」と言って良いのは、医薬品もしくは医薬部外品だけです。
これは法律によって厳しく管理されています。
一方、化粧品であるまつげ美容液は「育毛効果がある」と言ってはいけません。
なぜなら、化粧品にできることは「表面的な見栄えを良くするだけ」だからです。
具体的に言えば、まつげ美容液ができるのは「まつげにハリ、コシ、ツヤを与えて見た目を良くし、その状態を保つ。」まで。
もし、まつげ美容液で育毛効果があるように表示した場合、それは法律違反となります。
現在販売されているまつげ美容液は、そのほとんどが化粧品ですので、まつげ美容液を買うときは育毛効果を期待しない方が良さそうです。
こうなると次は、
「じゃあ、ちゃんとした育毛効果が欲しいなら、市販のまつげ育毛剤を買えば良いの?」
となりますよね?
実際はそこにも問題があります。
市販のまつげ育毛剤は安全ではない可能性
先に結論を書くと、2019年8月現在で医薬部外品のまつげ育毛剤として市販されている商品は買わない方が良いです。
理由は、「その商品は、まつげ用に開発されたものではないから」です。
医薬部外品の育毛剤は「頭髪用」
医薬部外品の育毛剤は頭髪への使用を想定していて、実はまつげへの使用は対象外です。
これに関しては、厚生労働省からも注意喚起が出ています。
2019年8月現在で市販されている医薬部外品のまつげ育毛剤は、この頭髪用に使われる育毛剤を流用したものになります。
そのため、まつげで効果が出るかどうかは実際に検証されていません。
また、医薬部外品の育毛剤は皮脂の多い頭皮での使用を前提としているため、皮脂が少なく皮膚も薄いまぶた周辺では、皮膚トラブルが起きる可能性が高いことが専門家から指摘されています。
まつげに使えるかどうか分からない医薬部外品の育毛剤を、特に確認もせずまつげに流用することは、利用者のことを全く考えていない行為であり、信頼性の面でも劣ります。
無用なトラブルを避けるためにも、市販されている医薬部外品のまつげ育毛剤は使わない方が良いでしょう。
↓まつげ美容液、育毛剤のトラブルに関しては次の記事もオススメ
【まつげ美容液のトラブル増加問題】ポイントを分かりやすく解説!
まつげを育てる効果が確認されているのは「医薬品」だけ
まつげ美容液も、医薬部外品のまつげ育毛剤も、まつげを成長させる効果がきちんと確認された商品ではありません。
今のところ、実際にまつげへの効果が確認されているのは「ビマトプロスト」という成分が入った医薬品のみです。
ビマトプロストには、上まつ毛の長さ、太さ、濃さを改善する効果があることが証明されています(発毛可能な毛包が存在している場合に限る)。
日本国内で承認されている医薬品で、ビマトプロストを含む医薬品としては「ルミガン」と「グラッシュビスタ」が有名です。
ルミガンよりグラッシュビスタがおすすめな理由
ルミガンとグラッシュビスタは、どちらも同じビマトプロスト製剤ですが、今使うならグラッシュビスタがオススメです。
なぜなら、グラッシュビスタの方がまつげを成長させる薬として正式に承認されているからです。
参考 グラッシュビスタ® 患者様向けサイトアラガン・ジャパン株式会社ルミガンは緑内障治療の目薬
実はルミガンは緑内障(眼圧が上昇する病気)の治療薬であり、本来はまつげ向けの医薬品ではありません。
ルミガンの本来の目的は緑内障の治療なので、まつげを成長させる効果は「本来意図した効果ではない効果=副作用」だったのです。
ルミガンを使っている人達の間で、まつげが成長する人が出やすいことが知れ渡り、そこから美容外科医や眼科医などによって、本来の目的とは異なる利用方法として、まつげを成長させることができる医薬品としても知られるようになりました。
(本来承認された目的とは違うこのような使われ方を、医療では適用外使用と呼びます。)
まつげ向けに承認されたグラッシュビスタ
グラッシュビスタはルミガンと違い、最初からまつげを成長させる薬として承認されています。
(睫毛貧毛症と呼ばれる、まつ毛が不足していたり、不十分であったりする症状が対象)
含まれるビマトプロストはグラッシュビスタもルミガンも0.03%の濃度でビマトプロストが含まれています。
1本辺りの量が違っていて、グラッシュビスタは1本あたり5ml、ルミガンは1本あたり2.5mlもしくは3mlの製品があります。
ルミガンと含まれる成分が全く同じグラッシュビスタですが、まつげ専用の治療薬として承認されている点、1日の使用量や使い方が確立されている点を考慮すると、適応外使用であるルミガンより安心して使える薬であることは間違いないでしょう。
グラッシュビスタはどこで買える?
グラッシュビスタは医師の処方せんが必要な医薬品なので、医療機関を受診して出してもらう必要があります。
眼科、美容外科、美容皮膚科であれば比較的手に入れやすく、対応してもらいやすいでしょう。
ホームページなどでグラッシュビスタを提供していることを明記しているところ、または美容に関する診療に力を入れているところなら、対応が早いと思います。
医薬品でまつげを育てるときに知っておきたいこと
ここまでの説明で、本当にまつげを育てる効果がある医薬品が何か?が分かりましたね。
次は、医薬品を使ってまつげを育てる際、あらかじめ知っておくと便利な知識をまとめましたので、使用の際の参考にしてみてください。
費用はどれくらい?
まつげ用の医薬品であるグラッシュビスタの場合、眼科や美容外科での相場としては1箱70日分で1万~2万の間となっています。
1ヶ月(=30日)あたりで考えると、大体4000円~8000円程度。
1日あたりだと、140円~280円程度になります。
ルミガンは日本の千住製薬製(2.5ml)とアラガン社製(3ml)の主に2種類があり、調べてみるとまつげ向けに出される場合、1本あたり5000~8000円辺りが大体の相場でした。
グラッシュビスタが1本5mlで70日分なので、ルミガンは1本3mlで約42日分とすると、1ヶ月(30日)あたり5000~5700円程度、1日あたり166~190円といったところでしょうか。
1日あたりの費用で比べると、グラッシュビスタとルミガンの間にはそこまで大きな差はないように思います。
でも、グラッシュビスタもルミガンも、値段がちょっと高いですよね?
これには理由があります。
高いのは「保険適用外」だから
実はグラッシュビスタもルミガンも、保険の適用外になります。
保険適用外になる理由は、まつげを育てるということで、治療目的ではないからです。
保険が使えるなら、例えば一般成人であれば医療費全体の3割の負担で済みますが、全額自己負担になるから高いんです。
さらに診療費などのその他費用もプラスされます
医療機関を受診して薬を出してもらう場合、受診にかかる費用(診察料など)が発生する場合があります。
この辺りは受診する医療機関により異なりますが、1回あたり1000~2000円程度は想定しておくと良いかと思います。
個人輸入は安いけど、リスクが高い
普通に使おうとするとグラッシュビスタやルミガンは高いので、なるべく安くしたいという人も当然出てきます。
そんな人達は「個人輸入」という方法を使う人も多いですが、個人輸入は高いリスクがあることでも知られています。
医療機関で受診して手に入れる場合よりも格安で薬を入手できる場合が多い。
個人輸入代行業者を利用する方法が一般的だが、偽物や粗悪品による健康被害、医師不在の中での医薬品の使用による副作用の発見遅れなどによる健康被害といったリスクがあり、死亡例も報告がある。
個人輸入では、日本では発売されていないラティース(海外でまつげ用として承認あり)、ルミガンの後発品のケアプロスト、ビマトアイドロップスといった、海外の医薬品を1本2000円程度から入手することが可能です。
値段を見ると、ちょっと気を引かれてしまいますよね。
ですが、たしかに個人輸入は格安で目的の医薬品を手に入れられるのですが、そこに隠れているリスクは強調されることは少ないです
実際に、個人輸入による健康被害の報告は近年増加していて、薬の種類によっては死亡例も出ています。
個人輸入によるリスクとしては、主なリスクとして次のようなものがあります。
- 偽物、品質の悪い粗悪品をつかまされるリスク
- 違法薬物が混入するリスク
- 副作用発見が遅れて、深刻な問題が起こりやすいリスク
目の周辺に使う薬の場合は、特に品質の点と、副作用の点が心配なところです。
そこで、次はビマトプロストによる副作用について見ていきましょう。
ビマトプロストの副作用について
ビマトプロストをまつげに使用する場合の副作用については、正式にまつげ用の医薬品として登録されているグラッシュビスタの情報が役に立ちます。
参考 グラッシュビスタの副作用は?アラガンジャパン社重大な副作用
ビマトプロストでまれに起こる重大な副作用としては、黒目の部分(虹彩)やまぶた(眼瞼)周辺への色素沈着と、眼瞼深溝化(目の周りがくぼんだようになる)があります。
まぶたの皮膚での色素沈着は使用をやめれば徐々に改善する可能性が高いですが、黒目部分の色素沈着は元に戻らない可能性もあります。
これらは頻度としては0.2%程度(グラッシュビスタの添付文書より)と非常に可能性は低いですが、起こった場合にはなるべく早く使用を中止し、医療機関を受診する必要があります。
その他の副作用
その他の副作用としては、目やまぶたでの炎症やかゆみ、痛みなどが主になります。
また、まつげ自体にも頻度は低いですが(2%未満)、まつげが裂ける、抜け落ちるなどの報告があります。
目の際で使う薬なので、比較的起こりやすいのが、目に入ってしみる、目が充血するなど、角膜(黒目の表面の透明な膜)への刺激でしょう。
大抵の炎症は一時的なものとして治りますが、炎症→びらんと悪化して行くと、最悪の場合は視力低下や失明の可能性も出てきますので、症状が続くようであれば早めの受診が必要です。
個人輸入だと副作用の救済も受けられない
日本国内の医薬品を適正に使用して副作用が発生した場合、その後の治療等の保証が受けられる「医薬品副作用救済制度」というものがあります。
参考 副作用が出た後の救済制度医薬品副作用被害救済制度例えば日本できちんとまつげ用として承認されているグラッシュビスタを、医療機関受診の元、正しく処方してもらった場合、重大な副作用が起こった際にはこの救済制度を利用可能です。
ルミガンの場合は適用外使用(本来の使用目的とは異なる使い方)となるので、医療機関受診の場合でも補償を受けられるかどうかは微妙なところです。
(ただし、ある程度その利用方法が一般的であれば対象となる可能性もあります)。
個人輸入の場合は完全にアウトです。
医薬品副作用救済制度による救済は全く望めません。
二重まぶたになれるって本当?
これは副作用のところで説明した眼瞼溝深化(目の周りがくぼんだようになる)によって起こる可能性があります。
眼瞼溝深化は一説にはビマトプロストによって目の周りの脂肪の産生が抑えられることで起こる可能性が報告されています(※1)。
まぶたの脂肪が減ると、まぶたにしわができる、二重がさらにクッキリするなどは起こる可能性はあるでしょう。
ですが、眼瞼溝深化は二重まぶただけを狙って起こせるわけではありません。
眼の周りがくぼむ、まぶたがたるむことで見た目が悪くなる可能性も十分ありますので、二重まぶたを狙ってビマトプロスト製剤を使うのは、臨んだ結果が出るとは限らないので、やめておいた方が良いでしょう。
眼瞼深溝化は起こる可能性は低いので(0.2%)、二重を期待してなれる可能性はかなり低いと思われます。
まつげを美しく整える効果はない
ビマトプロストのようなまつげを育てる薬は、まつげを育てる、増やす、太くすることができます。
これはまつげ美容液にはできないことですよね。
しかし逆に、まつげを育てる薬には、まつげ美容液ができる「見た目を美しくする(=まつげにハリやコシ、ツヤを与える)」という効果はありません。
まつげを育てる薬に出来るのは「まつげを育てること」であり、「よい見た目を保つ」は別の話なので勘違いしないようにしましょう。
美しい見た目のまつげを保つには、まつげ美容液の利用が役に立つ場合もあります。
まとめ
- まつげ美容液は、まつげ育毛剤ではない。
- 市販の医薬部外品のまつげ育毛剤は、本来は髪用の成分なので使用は避けること。
- 本当にまつげを育てたいなら、医療機関を受診してグラッシュビスタを使用する。
- 色素沈着、まぶたのくぼみなどの副作用を考えると、個人輸入は避けた方が良い。
以上が薬剤師から提供する情報になります。
美しくボリュームのあるまつげは女性にとっての憧れだと思いますが、正しい情報を得ることなく、お金を惜しんだ結果、安易に怪しい商品に手を出した場合、健康被害に遭ってしまっては元も子もありません。
費用は多くかかってしまいますが、信頼性の高い医療機関の受診が、ご自身の将来を考えた上で最良の選択ではないかと思います。
※1 Yukako Taketani,Reiko Yamagishi,Takashi Fujishiro,Masaki Igarashi,Rei Sakata,Makoto Aihara (2014) Investigative Ophthalmology & Visual Science March 2014, Vol.55, 1269-1276. doi:10.1167/iovs.13-12589