カフェインやエナジードリンクは「飲む」から「吸う」時代へ。
色んなアイデアがありますね。
こんにちは、薬剤師ケイです。
少し前に、元JT社員の方が立ち上げたBREATHERという会社が「ston(ストン)」という、カフェインを吸える機器の販売をスタートして話題を集めていました。
カフェインを吸うということで、気になるのがその危険性や毒性。
カフェインに関しては、過剰摂取により過去には死亡例が出るなど、その危険性が取り上げられることも増えています。
カフェインの毒性に関しては、中毒の起きる量や死亡例などについて、以前に記事で取り上げていますので、知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
⇒【今すぐ知りたい!】カフェイン中毒になる量、症状と対処法まとめ
stonのように吸うカフェイン以外に、吸うエナジードリンクまで販売されているわけですが、実際のところどれだけの危険性があるのでしょうか?
薬剤師の視点から検証していきたいと思います。
目次
吸うカフェインは安全なのか?
今回発売されたBREATHER株式会社のstonに関しては、カフェインに関して言えばかなり少量のため、一部を除きリスクは少ないようです。(カフェイン以外の成分に関しては、詳しい情報が無いため、今回は検証していません。)
stonに含まれるカフェインの量は?
探してみましたが、公式サイト上ではstonで吸引できるカフェイン量についての言及がありませんでした。
ここをきちんと掲載しないのは、ちょっと企業として残念なところです。
さらに調査をしたところ、ITmediaさんのインタビュー記事に1吸引あたりのカフェインの量が推測できる情報がありましたので、そこを参考にさせていただきました。
「カフェインは、経口摂取の場合で(最も基準の厳しい)妊娠した女性は1日200ミリグラム以下とされています。接種法の違いを考慮しても、stonでこの量に達するには1日に1000回も吸引することになります」
ここから考えると、カフェイン200ミリグラムを摂るには1000回吸引ということですから、stonで1吸引あたりのカフェイン量は0.2mgと推測できます。
またstonの公式サイトでは、ひと休みあたりの吸引回数として6回を想定しています。
1カートリッジあたり250回吸引でき、約40回分のひと休みに相当(ひと休みあたり6回吸引想定)。
ここから考えると、stonで吸引できるカフェインに関しては、次のようなことが分かります。
- 1吸引で0.2mgのカフェインが摂取できる
- ひと休み(6回吸引)だと1.2mg
- 1カートリッジ全て(250回分)だと50mg
stonは1カートリッジ全部使っても、コーヒー1杯当たりのカフェイン量(90mg程度)より少ない量です。
stonは異常な量を使わない限り(例えば1日に何カートリッジも使うなど)、まずカフェインによる問題は起こることはないのではないでしょうか。
(例外)カフェイン過敏症は害が出る可能性あり
健康な一般の方であれば、stonのカフェインで健康問題が出ることはまず出ないと思われますが、カフェインに過敏な方になると話は別です。
カフェイン過敏症の人で、微量のカフェインにでも反応してしまうほどの人であれば、カフェイン中毒に似た症状(動悸や手足のしびれなど)が出る可能性はあるでしょう。
カフェインに過敏な人、アレルギーのある人、子供や妊産婦、お年寄りなど耐性の低い人は、stonは使わない方が良いでしょう。(stonは20歳以上推奨となっています)
吸うエナジードリンクの安全性は?
次に、吸うエナジードリンクと呼ばれる製品についてもチェックしてみました。
吸うエナジードリンクでは、「イーグルエナジー」という商品が有名なようです。
イーグルエナジーは海外の会社が販売元のようですが、日本語サイトもあります。
結論から言えば、吸うエナジードリンクのイーグルエナジーの方が、さきほどのstonよりカフェインの含有量が多く、危険性は高いと思われます。
吸うエナジードリンクはカフェイン含有量が高い
イーグルエナジーに関しても、stonと同様、残念ながら公式サイトではカフェイン含有量に関して情報を明らかにしていませんでした。
イーグルエナジーに関しても、含まれるカフェインの量は、その他の情報から推測するしかありません。
イーグルエナジーのカフェイン量に関しては、アマゾンの販売ページでは次のように書かれていました。
・10~20回の吸引でコーヒーまたはエナジードリンク1本と同等の効果
また、海外のHUFFPOSTの記事では、次のような言及がありました。
“We recommend 10-20 puffs depending on each person’s sensitivity to caffeine,” Lang said, estimating that this is about equal to the roughly 95 - 200 milligrams of caffeine found in a single serving of black coffee.
これらから推測すると、イーグルエナジーは1吸引あたり5~20mgのカフェイン量を含むことになります。
- 1吸引で5-20mgのカフェインが摂取できる
- 個人差はあるが推奨は10-20吸引、これはカフェイン量として95-200mgに相当
- 1カートリッジ全部(400回分)には、2000-8000mg(2-8g)のカフェインが含まれる計算
吸うエナジードリンクは中毒の危険性あり
イーグルエナジーは1回あたり10-20吸引すれば、コーヒー1本かエナジードリンク1本を摂るのと同じ量のカフェインを摂取することになります。
これは1吸入あたりstonの25-100倍のカフェインを摂取することになります。
1日にこれを何回か吸引を繰り返すと、人によってはカフェイン中毒の症状(動悸や手足のしびれなど)が起こる可能性は考えられます。
また1カートリッジ全部で考えれば、致死量と言われる5-10mgも超える可能性も出てきます。
吸うエナジードリンクの方は、扱い方によっては命の危険があるという認識は持っておいた方が良いでしょう。
また、吸うカフェインのstonと、吸うエナジードリンクのイーグルエナジーは全く別物と考えるべきでしょう。
吸うエナジードリンクの方が、カフェイン中毒が起こる可能性は断然高いです。
薬剤師として懸念すること
医療に携わる身としては、やはり吸うカフェイン、エナジードリンクによる健康被害を懸念します。
特に、
- 医薬品
- 向いていない人
- さらに上の嗜好品、薬物へのステップアップ
この辺りが問題となる可能性があると思われます。
併用に注意したい医薬品
吸うカフェインも、吸うエナジードリンクも、基本的には何らかの持病がある方は避けた方が良いでしょう。
併用で注意すべき医薬品は、カフェインと同様に考えると良いでしょう。
医療機関でもらえる薬では、以下の薬剤には特に注意しましょう。
- 気管支、喘息の薬
- 心臓の薬(強心薬、抗不整脈薬)
- 尿を出しやすくする薬(利尿薬)
- 抗うつ薬などの精神系の薬
- 抗菌薬、抗真菌薬
- 胃酸を抑える薬
- 経口避妊薬
- ホルモン剤
市販薬でもカフェインが入っている医薬品は注意が必要です。
特に風邪薬、眠気覚ましのカフェイン製剤は一緒に使わないようにしましょう。
アルコールもカフェインの中毒を起こしやすくしたり、増強するので併用はしない方が良いでしょう。
使用を避けた方が良い人はこんな人
基本的には健康な成人が想定されていると思われますので、特に以下の人は吸うカフェイン、エナジードリンクの使用は避けましょう。
- 持病のある方(特に喘息、糖尿病、心臓病、精神疾患のある人)
- カフェインに過敏な人
- 妊娠、授乳中の人
- 乳幼児、小児
また、健康な人でも疲れている時や体調が優れないときは、いつもと違ってカフェインの副作用が出る可能性がありますので控えた方が良いでしょう。
次の段階へのステップアップに注意
吸引して使う製品に慣れてくると、同じように吸引して使うものに対する抵抗感が薄れていくことが考えられます。
吸うカフェイン、エナジードリンク自体にそこまで問題がないにしても、ゲートウェイドラッグのように、さらに上のリスクが高い嗜好品や薬物の入り口となってしまう可能性は懸念されるところです。(例:吸うカフェイン等の製品→タバコ→マリファナ、大麻など→覚醒剤、コカイン、ヘロインなど)
「さすがに薬物までのステップアップは大げさだろう」と感じる人は多いでしょうが、可能性自体は認識しておいても良いのではないでしょうか。
知っているのと知らないのとでは、その後に取れる対応も違ってくると思います。
こういった点でも、セルフコントロールが未熟な未成年での使用を推奨していないのは必要なことだと思います。
吸うカフェイン、エナジードリンクの次に始めやすいと考えられるのはタバコでしょうか。
stonはタバコ産業のJTの元職員の人が立ち上げているので、次のタバコへのステップアップを視野に入れている可能性もあるのかも?と考えるのは勘ぐりすぎでしょうか。
JTさんには、過去にタバコで健康被害を助長してきた分、その逆の分野にもっと力を入れていただきたいと個人的には思います。
まとめ
- 吸うカフェインは、カフェイン量自体についてはそこまで問題になる量ではない。
- 吸うエナジードリンクは、含まれるカフェイン量が多いので注意が必要(乱用により中毒量、致死量にいたる可能性あり)。
- 含まれるカフェインと相互作用を起こす薬がある
- 健康な成人以外は使わないこと
- さらに上のステップアップ(タバコ、薬物など)への心理的な障壁を下げる可能性があるので注意
吸うカフェイン、エナジードリンクともに法的な規制はありませんので、未成年での使用すら「推奨しない」程度の表記だけになっており、実際は何の規制もないありません。
そのため、未成年でのカフェイン中毒や、さらにタバコ等へのステップアップは懸念されるところです。
カフェインによる中毒に関しては、死亡例も出ているにも関わらず、そのリスクが軽視されがちなところが残念なところです。
嗜好品であり、個人の自由と言えばそれまでですが、やはり少なからずリスクの高い成分を含んでいる以上、もっと配慮や基準等があっても良いのではないかという気もします。企業や政府にはもっとしっかりしてもらいたいところです。
さらなる刺激を求めていった結果・・・という例が増えることになりませんように。